欠けた季節 24  

     


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 細木の逮捕から、2週間が過ぎた。その間、《ドール・バンク》も売春あっせん容疑で摘発され、多数の女性が検挙された。
 美樹は契約としてお金をうけとってはいたが、交際した相手は細木ひとりだ。不特定多数の異性との性交渉ではなかったため、罪に問われなかった。
「便器を使ったのがたまたま1人で助かったな、公衆便所め!」
 取り調べの警官は吐きすてた。
 美樹はなにも言いかえさず、聞きながしていた。ただ、
(この人は、ほんとうに人を愛したことがあるだろうか……)
と、ずっと考えていた。
 裕介は美樹の身を気づかった。細木が逮捕され、いちどにやつれた彼女の頬が、心労の重さをものがたっていた。 
「細木さんは、わたしをたすけようとしてくれたのよ。あの上司のひとが、どこで調べたのか、8月のなかごろからわたしのところへ何度も電話をかけてきていたの。『あんたのやっていることをばらされたくなかったら、俺とつきあえ』って」
 会社のデータ・バンクを利用して調べたのだろう。
「あの日、僕が気づいていたら……」
〈あのとき、細木さんを止めることができていたら――〉
 裕介がくりかえす悔いを美樹は黙って聞いていた。
 美樹はなにも言わなかった。くちびるをかみしめ、こぼれそうな涙を、必死にせきとめている。
 裕介は胸をうたれた。
〈いちばん辛くて、いちばん耐えているのは、美樹なんだ――〉
 裕介の声がかすれる。
「……きみは、つよすぎるよ」
「あなたは、……優しすぎるわ」
 美樹はささやくように返した。
 許可がおりたら、ふたりで細木の面会にいく約束をした。
 裕介は、彼の親友として。
 美樹は、細木の“欠けた季節”の恋人として――。



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